【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用インク、該筆記具用インクを用いた筆記具に関する。【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、金属をナノサイズに微細化して用いることにより発現する機能及び物性の多様性から、多岐にわたる工業的応用の展開が期待されている。
その工業的展開の一つとして、印刷技術を用いて電子デバイスや回路を形成するプリンテッド・エレクトロニクスへ金属微粒子を含有するインクを用いる検討がされている。
電子デバイスや回路の設計や試作には、簡便な方法で導電性パターンを形成することが求められている。このような方法として金属微粒子を含有するインクが充填された筆記具が用いられている。
例えば、特許文献1には、水性溶媒と、水性溶媒に分散された金属を含む導電性粒子と、該導電性粒子を被覆する分散剤とを含むローラーボールペンのための導電性インクが記載されている。【先行技術文献】
【0003】
【特許文献1】
特表2017-523251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子デバイスが身近なものとなり、教育現場においても電子デバイスや回路の理解は重要度を増している。また、電子デバイスの開発速度は加速度的に速くなってきており、プロトタイピングが重要視されてきている。このような教育現場やプロトタイピング等の様々な用途において金属微粒子を含有する筆記具用インクの需要が高まっている。プロトタイプとして回路を作成する際には導電配線が低抵抗であることが求められる。導電配線の電気抵抗の指標としてはシート抵抗(表面抵抗率)が用いられるが、実使用可能なレベルのシート抵抗を発現する筆記具用インクの開発が求められている。
また、筆記具のキャップを開けた状態で放置した後に再度使用するとカスレが生じ難いキャップオープンタイム特性(以下、「オープンタイム特性」ともいう)に優れることも求められる。
しかしながら、特許文献1の技術では、シート抵抗が十分に低くなく、また、キャップオープンタイム特性も十分でないことも判明した。
本発明は、シート抵抗が低い金属膜を形成することができ、キャップオープンタイム特性に優れる筆記具用インク、及び該筆記具用インクを用いた筆記具を提供することを課題とする。【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、金属微粒子、ポリマー分散剤、及びポリオールを含有する筆記具用インクであって、ポリマー分散剤が、カルボキシ基を有するモノマー由来の構成単位とポリオキシアルキレン基を有するモノマー由来の構成単位とを含み、該筆記用インク中のポリオールの含有量が所定の範囲であり、金属微粒子のキュムラント平均粒径が所定の範囲であることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。【0006】
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]金属微粒子A、ポリマー分散剤B、及びポリオールCを含有する筆記具用インクであって、
ポリマー分散剤Bが、カルボキシ基を有するモノマー(b-1)由来の構成単位とポリオキシアルキレン基を有するモノマー(b-2)由来の構成単位とを含み、
該筆記用インク中のポリオールCの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、
金属微粒子Aのキュムラント平均粒径が10nm以上100nm以下である、筆記具用インク。
[2]前記[1]に記載の筆記具用インクを充填してなる、筆記具。【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シート抵抗が低い金属膜を形成することができ、キャップオープンタイム特性に優れる筆記具用インク、及び該筆記具用インクを用いた筆記具を提供することができる。【発明を実施するための形態】
【0008】
[筆記具用インク]
本発明の筆記具用インクは、金属微粒子A、ポリマー分散剤B、及びポリオールCを含有する筆記具用インクであって、ポリマー分散剤Bが、カルボキシ基を有するモノマー(b-1)由来の構成単位とポリオキシアルキレン基を有するモノマー(b-2)由来の構成単位とを含み、該筆記用インク中のポリオールCの含有量が5質量%以上50質量%以下であり、金属微粒子Aのキュムラント平均粒径が10nm以上100nm以下である。
本発明の筆記具用インクは、金属微粒子Aが、ポリマー分散剤BによりポリオールCを含む媒体中に分散されてなるものである。【0009】
本発明によれば、シート抵抗が低い金属膜を形成することができ、キャップオープンタイム特性を向上させることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の筆記具用インクは、金属微粒子がポリマー分散剤によりポリオールを含む媒体中に分散されてなり、該ポリマー分散剤のカルボキシ基を有するモノマー由来の構成単位による静電的作用と、ポリオキシアルキレン基を有するモノマー由来による立体反発的作用により、金属微粒子の分散安定性が向上し、金属微粒子の凝集が抑制されると考えられる。また、本発明においては、筆記具用インクに含まれる金属微粒子のキュムラント平均粒径が所定の範囲であるため、粒子径の揃った金属微粒子の焼結が速やかに進行し、シート抵抗が低い金属膜を形成することができる。
さらに、筆記具のキャップを開けた状態で放置する場合であっても、本発明の筆記具用インクは、ポリオールを所定の範囲の量で含有することにより、該筆記具のペン先に残存するインクの乾燥が抑制され、金属微粒子の凝集による粗大化を抑制することができる。その結果、ペン先のインク流路の詰まりが抑制され、ペン先にスムーズにインクが供給されることとなり、キャップオープンタイム特性が向上すると考えられる。【0010】
<金属微粒子A>
本発明に係る金属微粒子Aを構成する金属(金属原子)は、チタン、ジルコニウム等の第4族の遷移金属、バナジウム、ニオブ等の第5族の遷移金属、クロム、モリブデン、タングステン等の第6族の遷移金属、マンガン、テクネチウム、レニウム等の第7族の遷移金属、鉄、ルテニウム等の第8族の遷移金属、コバルト、ロジウム、イリジウム等の第9族の遷移金属、ニッケル、パラジウム、白金等の第10族の遷移金属、銅、銀、金等の第11族の遷移金属、亜鉛、カドミウム等の第12族の遷移金属、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の第13族の金属、ゲルマニウム、スズ、鉛等の第14族の金属などが挙げられる。金属微粒子を構成する金属は、1種を単独金属として用いてもよく、2種以上を併用して合金として用いてもよい。中でも、シート抵抗を低減する観点から、好ましくは第4族~第11族で第4周期~第6周期の遷移金属であり、より好ましくは銅や金、銀、白金、パラジウム等の貴金属であり、更に好ましくは金、銀、銅及びパラジウムから選ばれる少なくとも1種を含み、より更に好ましくは金、銀及び銅から選ばれる少なくとも1種を含み、より更に好ましくは銀を含み、より更に好ましくは銀である。金属の種類は、高周波誘導結合プラズマ発光分析法により確認することができる。【0011】
本発明の筆記具用インク中の金属微粒子Aのキュムラント平均粒径は、シート抵抗を低減させる観点、及びオープンタイム特性を向上させる観点から、10nm以上であり、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であり、そして、100nm以下であり、好ましくは80nm以下、より好ましくは60nm以下、更に好ましくは50nm以下である。前記キュムラント平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。【0012】
本発明の筆記具用インク中の金属微粒子Aの含有量は、シート抵抗を低減する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、キャップオープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下である。【0013】
<ポリマー分散剤B>
本発明において金属微粒子Aは、ポリマー分散剤B(以下、単に「分散剤B」ともいう)で分散されてなる。分散剤Bは、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、カルボキシ基を有するモノマー(b-1)由来の構成単位とポリオキシアルキレン基を有するモノマー(b-2)由来の構成単位とを含む。
分散剤(B)は、モノマー(b-1)及びモノマー(b-2)を含む原料モノマーを共重合させて得ることができる。分散剤Bは、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれでもよい。【0014】
〔カルボキシ基を有するモノマー(b-1)〕
モノマー(b-1)は、カルボキシ基を有し、該カルボキシ基の少なくとも一部が塩を形成していてもよい。
モノマー(b-1)としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。なお、前記不飽和ジカルボン酸は無水物であってもよい。
モノマー(b-1)は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
モノマー(b-1)は、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸及びマレイン酸から選ばれる少なくとも1種である。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。以下における「(メタ)アクリル酸」も同義である。【0015】
〔ポリオキシアルキレン基を有するモノマー(b-2)〕
モノマー(b-2)は、分散剤Bの側鎖としてポリオキシアルキレン基を導入することができ、これにより、該ポリオキシアルキレン基の立体反発的作用により、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させることができると考えられる。
モノマー(b-2)としては、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。モノマー(b-2)は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも1種である。以下の「(メタ)アクリレート」も同義である。【0016】
モノマー(b-2)のポリオキシアルキレン基は、好ましくは炭素数2以上4以下のアルキレンオキシド由来の単位を含み、より好ましくはエチレンオキシド由来の単位及びプロピレンオキシド由来の単位から選ばれる少なくとも1種を含む。
前記ポリオキシアルキレン基中のアルキレンオキシド由来の単位数は、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上であり、そして、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは50以下である。
前記ポリオキシアルキレン基は、エチレンオキシド由来の単位とプロピレンオキシド由来の単位を含む共重合体であってもよい。エチレンオキシド由来の単位(EO)とプロピレンオキシド由来の単位(PO)とのモル比[EO/PO]は、好ましくは0.9以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは1.1以上であり、そして、好ましくは9以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下である。
エチレンオキシド由来の単位とプロピレンオキシド由来の単位を含む共重合体は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。【0017】
アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのアルコキシ基の炭素数は、好ましくは1以上8以下である。
アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、メトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。【0018】
モノマー(b-2)は、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及びアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであり、更に好ましくはメトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、及びオクトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であり、より更に好ましくオクトキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであり、より更に好ましくはオクトキシ(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール)(メタ)アクリレートである。【0019】
商業的に入手しうるモノマー(b-2)の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルAM-90G、同AM-130G、同AMP-20GY、NKエステルM-20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE-90、同200、同350等、ブレンマーPME-100、同200、同400、同1000、同4000等、ブレンマーPP-500、同800、同1000等、ブレンマーAP-150、同400、同550等、ブレンマー50PEP-300、同50POEP-800B、同43PAPE-600B等が挙げられる。【0020】
〔芳香族基含有モノマー(b-3)〕
分散剤Bは、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは更に芳香族基含有モノマー(b-3)由来の構成単位を含む。
モノマー(b-3)は、好ましくは、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーであり、より好ましくは、スチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上である。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-ビニルトルエン(4-メチルスチレン)、ジビニルベンゼン等が挙げられるが、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
モノマー(b-3)は、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくはスチレン、α-メチルスチレン、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはスチレンである。【0021】
分散剤Bは、本発明の効果を阻害しない範囲で、モノマー(b-1)由来の構成単位、モノマー(b-2)由来の構成単位、及びモノマー(b-3)由来の構成単位以外に他のモノマー由来の構成単位を含むものであってもよい。他のモノマーとしては、例えば、脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数1以上22以下の脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有するものである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の分岐鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。【0022】
分散剤B製造時における各モノマーの原料モノマー中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)、又は分散剤B中における各モノマー由来の構成単位の含有量は、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、次のとおりである。
モノマー(b-1)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
モノマー(b-2)の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは90質量%以下、より更に好ましくは80質量%以下、より更に好ましくは70質量%以下である。
分散剤Bが芳香族基含有モノマー(b-3)由来の構成単位を含む場合、モノマー(b-3)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50.5質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
モノマー(b-2)に対するモノマー(b-1)の含有量の質量比〔モノマー(b-1)/モノマー(b-2)〕は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上であり、そして、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.07以下、より更に好ましくは0.05以下である。
分散剤B中のモノマー(b-1)由来の構成単位及びモノマー(b-2)由来の構成単位の合計含有量は、前記と同様の観点から、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下である。【0023】
分散剤Bは、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくはモノマー(b-1)として(メタ)アクリル酸及びマレイン酸由来の構成単位、及びモノマー(b-2)としてアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位を含み、より好ましくはモノマー(b-1)として(メタ)アクリル酸及びマレイン酸から選ばれる少なくとも1種由来の構成単位、モノマー(b-2)としてアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート由来の構成単位、モノマー(b-3)としてスチレン、α-メチルスチレン、及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種由来の構成単位を含む。
分散剤Bは、公知の方法で合成したものを用いてよく、市販品を用いてもよい。分散剤Bの市販品としては、BYK社製のDISPERBYK-190、同2015等が挙げられる。【0024】
分散剤Bの数平均分子量は、好ましくは3,000以上、より好ましくは7,000以上、更に好ましくは10,000以上、であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下、更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは40,000以下である。分散剤Bの数平均分子量が前記の範囲であれば、金属微粒子への吸着力が十分であり分散安定性を発現することができる。前記数平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。【0025】
分散剤Bの酸価は、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは200mgKOH/g以下、より好ましくは100mgKOH/g以下、更に好ましくは50mgKOH/g以下、より更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
分散剤Bの酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することもできる。また、適当な溶剤にポリマーを溶解又は膨潤させて滴定する方法でも求めることができる。【0026】
分散剤Bの存在形態は、金属微粒子に分散剤Bが吸着している形態、金属微粒子を分散剤Bが含有している金属微粒子内包(カプセル)形態、及び金属微粒子に分散剤Bが吸着していない形態がある。金属微粒子の分散安定性の観点から、金属微粒子を分散剤Bが含有する形態が好ましく、金属微粒子を分散剤Bが含有している金属微粒子内包状態がより好ましい。【0027】
本発明の筆記具用インク中の分散剤Bの含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは1.3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下、より更に好ましくは2質量%以下である。【0028】
本発明の筆記具用インクにおける金属微粒子A及び分散剤Bの合計含有量に対する金属微粒子Aの含有量の質量比[金属微粒子A/(金属微粒子A+分散剤B)]は、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上、より更に好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.97以下、更に好ましくは0.95以下である。
前記質量比[金属微粒子A/(金属微粒子A+分散剤B)]は、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)を用いて実施例に記載の方法により測定される金属微粒子A及び分散剤Bの質量から算出される。【0029】
<ポリオールC>
本発明の筆記具用インクは、シート抵抗を低減する観点、及びペン先でのインクの乾燥を抑制し、オープンタイム特性を向上させる観点から、ポリオールCを含有する。
ポリオールCは、1分子中に2つ以上のアルコール性水酸基を有する化合物であれば特に制限はない。ポリオールCとしては、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)(沸点188℃)、1,2-ブタンジオール(沸点193℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点206℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃)等の1,2-アルカンジオール;ジエチレングリコール(沸点245℃)、トリエチレングリコール(沸点287℃)、テトラエチレングリコール(314℃)、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、トリプロピレングリコール(271℃)等のポリアルキレングリコール;1,3-プロパンジオール(沸点210℃)、1,4-ブタンジオール(沸点230℃)、1,5-ペンタンジオール(沸点242℃)等のα,ω-アルカンジオール;1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(沸点203℃)、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(沸点196℃)等のジオール;グリセリン等のトリオールなどが挙げられる。ポリオールCは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリオールCの沸点の加重平均値は、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは110℃以上、より更に好ましくは130℃以上、より更に好ましくは150℃以上であり、そして、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは230℃以下、より更に好ましくは200℃以下である。
ポリオールCは、シート抵抗を低減する観点、及びペン先でのインクの乾燥を抑制し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくはジオール及びトリオールから選ばれる少なくとも1種を含み、より好ましくは1,2-アルカンジオール、ポリアルキレングリコール、α,ω-アルカンジオール、及びグリセリンから選ばれる少なくとも1種を含み、更に好ましくは1,2-アルカンジオール、α,ω-アルカンジオール、及びグリセリンから選ばれる少なくとも1種を含み、より更に好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、及びグリセリンから選ばれる少なくとも1種を含み、より更に好ましくはエチレングリコール及びプロピレングリコールから選ばれる少なくとも1種を含み、より更に好ましくはプロピレングリコールである。【0030】
本発明の筆記具用インク中のポリオールCの含有量は、シート抵抗を低減する観点、及びペン先でのインクの乾燥を抑制し、オープンタイム特性を向上させる観点から、5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは25質量%以上であり、そして、50質量%以下であり、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。【0031】
<低分子カルボン酸D>
本発明の筆記具用インクは、シート抵抗を低減する観点、及びオープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは更に低分子カルボン酸Dを含有する。
低分子カルボン酸Dの炭素数は、好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上3以下である。低分子カルボン酸Dは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
低分子カルボン酸Dとしては、例えば、飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の脂肪族カルボン酸が挙げられる。低分子カルボン酸Dは、同一分子中にカルボキシ基以外の官能基を有していてもよい。該官能基としては、例えば、アルデヒド基、ハロゲン原子を含む官能基、ヒドロキシ基、チオール基等の少なくとも1種のヘテロ原子を含む官能基等の金属微粒子に対して配位性を有する官能基が挙げられる。中でも、シート抵抗を低減する観点、及びオープンタイム特性を向上させる観点から、低分子カルボン酸Dの同一分子中に、アルデヒド基を有することが好ましい。【0032】
低分子カルボン酸Dは、具体的には、ギ酸、グリオキシル酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロパン酸(プロピオン酸)、ブタン酸(酪酸)、イソブタン酸(イソ酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、イソペンタン酸(イソ吉草酸)、ピバリン酸、ヘキサン酸(カプロン酸)、乳酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸等のジカルボン酸;クエン酸等のトリカルボン酸などが挙げられる。
低分子カルボン酸Dは、シート抵抗を低減する観点、及びオープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくはギ酸、酢酸、プロピオン酸、及びグリオキシル酸から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはギ酸及びグリオキシル酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはギ酸である。【0033】
本発明の筆記具用インク中の低分子カルボン酸Dの含有量は、シート抵抗を低減する観点、及びオープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは7質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは3質量%以下である。【0034】
本発明の筆記具用インクにおけるポリオールCの含有量に対する低分子カルボン酸Dの含有量の質量比[低分子カルボン酸D/ポリオールC]は、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減し、オープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.03以上であり、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.5以下、より更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.07以下、より更に好ましくは0.05以下である。【0035】
<水>
本発明の筆記具用インクは、好ましくは更に水を含有する。
本発明の筆記具用インク中の水の含有量は、シート抵抗を低減する観点、及びオープンタイム特性を向上させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。【0036】
本発明の筆記具用インクは、更に必要に応じて、インクに通常用いられる、ポリマー粒子の分散体等の定着助剤、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を含有することができる。【0037】
(筆記具用インクの製造)
本発明の筆記具用インクは、公知の方法により予め調製した金属微粒子に分散剤B、ポリオールC、必要に応じて、低分子カルボン酸D、水及び各種添加剤を添加及び混合する方法、金属原料化合物、還元剤、及び分散剤Bを混合して、該金属原料化合物を還元する方法等により得ることができる。中でも、金属微粒子の分散安定性を向上させ、シート抵抗を低減する観点、及びオープンタイム特性を向上させる観点から、予め分散剤Bを含む金属微粒子乾燥粉を得た後、ポリオールC、必要に応じて低分子カルボン酸、水及び各種添加剤を添加及び混合する方法が好ましい。
金属微粒子乾燥粉は、金属原料化合物、還元剤、及び分散剤Bを混合し、該金属原料化合物が還元剤により還元し、分散剤Bで分散されてなる金属微粒子の分散体を得た後、該金属微粒子の分散体を凍結乾燥などにより乾燥させて得ることができる。
還元反応の温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、そして、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは50℃以下の範囲で行うことが好ましい。還元反応は、空気雰囲気下であってもよく、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下であってもよい。【0038】
金属原料化合物としては、前述の金属微粒子Aを構成する金属を含む化合物であれば特に制限はない。
還元剤としては、特に限定されず、無機還元剤、有機還元剤のいずれも用いることができる。
有機還元剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アスコルビン酸、クエン酸等の酸類及びその塩;エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン(2-(ジメチルアミノ)エタノール)、N,N-ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン等のアルカノールアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の(ポリ)アルキレンポリアミン等の脂肪族アミン;ピペリジン、ピロリジン、N-メチルピロリジン、モルホリン等の脂環族アミン;アニリン、N-メチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン;ベンジルアミン、N-メチルベンジルアミン等のアラルキルアミンなどが挙げられる。
無機還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素アンモニウム等の水素化ホウ素塩;水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム等の水素化アルミニウム塩;ヒドラジン、炭酸ヒドラジン等のヒドラジン類;水素ガス等が挙げられる。
還元剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。【0039】
本発明の筆記具用インクの製造においては、未反応の還元剤、金属微粒子Aの分散に寄与しない余剰の分散剤B等の不純物を除去する観点から、凍結乾燥の前に金属微粒子の分散体を精製してもよい。
金属微粒子の分散体を精製する方法は、特に制限はなく、透析、限外濾過等の膜処理;遠心分離処理等の方法が挙げられる。中でも、不純物を効率的に除去する観点から、膜処理が好ましく、透析がより好ましい。透析に用いる透析膜の材質としては、再生セルロースが好ましい。
透析膜の分画分子量は、不純物を効率的に除去する観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、好ましく100,000以下、より好ましくは70,000以下である。【0040】
本発明の筆記具用インクの25℃における粘度は、保存安定性及びオープンタイム特性の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは4mPa・s以上、より更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下、更に好ましくは15mPa・s以下、より更に好ましくは10mPa・s以下である。前記インクの粘度は、E型粘度計を用いて実施例に記載の方法により測定できる。
本発明の筆記具用インクの20℃のpHは、保存安定性の観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。前記インクのpHは、常法により測定できる。【0041】
[筆記具]
本発明の筆記具は、前記筆記具用インクを充填してなる。
本発明において、筆記具の形状及びインクの吐出機構は特に制限はない。
本発明の筆記具の先端のペン先部分へインクを供給する方法としては、(i)毛細管現象を用いる方法、(ii)重力による降下と毛細管現象とを併用する方法、(iii)重力により降下させてボール等の表面にインクが付着をさせる方法等が挙げられる。(i)の方法を用いる筆記具としては、マーカー(フェルトペン)、筆ペン、サインペン等が挙げられる。(ii)の方法を用いる筆記具としては、万年筆等が挙げられる。(iii)の方法を用いる筆記具としては、ボールペン等が挙げられる。中でも、オープンタイム特性の観点から、好ましくは(i)の毛細管現象を用いる筆記具である。【0042】
毛細管現象を用いる筆記具としては、いわゆるマーキングペンと称されるものが挙げられ、中綿式又は直液式のインク貯蔵体から毛細管現象によって先端のペン先にインクを誘導する。中綿式は、筆記具本体にインクを含んだ中綿(インクを含ませた貯蔵体)を内蔵し、その中綿に接触するようにペン先が取り付けられている。一方、直液式は、筆記具本体にインクが直接充填されてなるものである。
毛細管現象を用いる筆記具のペン先の形状としては、マーカータイプ又は筆ペンタイプが好ましく、マーカータイプがより好ましい。
マーカータイプのマーカー芯幅は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1mm以上、更に好ましくは3mm以上であり、そして、好ましくは60mm以下、より好ましくは40mm以下、更に好ましくは20mm以下、より更に好ましくは10mm以下である。【0043】
(金属膜の形成)
本発明において金属膜の形成方法としては、前記筆記具を用いてインクを基材上に塗布し、該基材上に金属膜が形成する工程を含むことが好ましい。
本発明に用いる基材としては、例えば、樹脂、紙、金属部材、ガラス、セラミック、又はこれらの複合材料などが挙げられる。
樹脂製基材としては、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリカーボネート(PC)等の合成樹脂フィルムなどが挙げられる。
紙基材としては、塗工紙(コート紙、アート紙等)、非塗工紙、普通紙、クラフト紙、合成紙、加工紙、板紙等が挙げられる。
金属部材としては、金基板、金メッキ基板、銀基板、銀メッキ金属基板、銅基板、パラジウム基板、パラジウムメッキ金属基板、プラチナ基板、プラチナメッキ金属基板、アルミニウム基板、ニッケル基板、ニッケルメッキ基板、スズ基板、スズメッキ金属基板等の金属系基板又は金属製基板;電気絶縁性基板の電極等の金属部分などが挙げられる。
これらの中でも、前記基材は、好ましくは樹脂製基材及び紙基材から選ばれる少なくとも1種である。【0044】
筆記具用インクの基材への塗布量は、基材100cm2当たり、好ましくは0.001g以上、より好ましくは0.005g以上、更に好ましくは0.007g以上であり、そして、好ましくは0.1g以下、より好ましくは0.07g以下、更に好ましくは0.05g以下、より更に好ましくは0.03g以下である。【0045】
本発明においては、シート抵抗を低減する観点から、前記筆記具を用いてインクを基材上に塗布した後、基材上のインク被膜中の媒体を蒸発乾燥させ焼結処理することが好ましい。
焼結処理の温度は、好ましくは基材が変形する温度未満であり、処理の簡便性の観点から、常温(例えば、20℃以上35℃以下)であってもよい。
焼結処理の周辺環境の相対湿度は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上であり、そして、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下である。
焼結処理は、基材の耐熱性及び処理の簡便性の観点から、常温(例えば、20℃以上35℃以下)で保管して処理することが好ましい。
焼結処理における常温処理の時間は、適宜調整することができるが、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、更に好ましくは6時間以上、より更に好ましくは12時間以上であり、そして、好ましくは36時間以下、より好ましくは24時間以下である。
焼結処理は、空気雰囲気下であってもよく、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下であってもよいが、前記基材が酸化されやすい金属である場合には、窒素ガス雰囲気下であることが好ましい。【0046】
焼結処理は、基材の耐熱温度にもよるが、基材上のインク被膜を加熱して行ってもよい。これにより、インク被膜中の媒体を速やかに蒸発乾燥させて、更に金属微粒子を焼結させてシート抵抗が低い金属膜を形成することができる。
加熱の方法は、特に制限はなく、基材のインク被膜が形成された表面と反対側の面にヒーターを接触させて加熱する方法、基材上のインク被膜面に熱風を付与して加熱する方法、基材上のインク被膜面にヒーターを近づけて加熱する方法、インク被膜を形成した基材を、温度を一定に保つことができる恒温装置内で保管する方法、常圧又は高圧で高温蒸気を用いる蒸気養生によって加熱する方法等が挙げられる。【0047】
加熱の温度は基材が変形する温度未満であることが好ましい。
加熱の温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは100℃以上、より更に好ましくは150℃以上、より更に好ましくは200℃以上であり、そして、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは270℃以下である。この場合の加熱の時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは10分以上、更に好ましくは20分以上であり、そして、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下、更に好ましくは30分以下である。【0048】
本発明により形成される金属膜のシート抵抗(表面抵抗率)は、好ましくは5Ω/□以下、より好ましくは4Ω/□以下、更に好ましくは3Ω/□以下、より更に好ましくは2Ω/□以下、より更に好ましくは1Ω/□以下、より更に好ましくは0.7Ω/□以下、より更に好ましくは0.5Ω/□以下、より更に好ましくは0.3Ω/□以下であり、そして、処理の簡便性の観点から、好ましくは0.01Ω/□以上、より好ましくは0.05Ω/□以上、更に好ましくは0.07Ω/□以上である。前記表面抵抗率は、実施例に記載の方法で測定される。【0049】
以下の合成例、製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
各種物性等は、以下の方法により測定又は算出した。【0050】
(1)ポリマー分散剤Bの数平均分子量Mn
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolumn Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー分散剤B 0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。【0051】
(2)金属微粒子分散体又は筆記具用インク中の金属微粒子Aの含有量及びポリマー分散剤Bの含有量
示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)「STA7200RV」(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、試料10mgをアルミパンセルに計量し、10℃/分の昇温速度で35℃から550℃まで昇温し、50mL/分の窒素フロー下で質量減少を測定した。35℃から200℃までの質量減少分を溶媒の質量、200℃から550℃までの質量減少分をポリマー分散剤Bの質量、550℃での残質量を金属微粒子Aの質量として、金属微粒子分散体又は筆記具用インク中の金属微粒子Aの含有量及びポリマー分散剤Bの含有量を算出した。【0052】
(3)金属微粒子Aのキュムラント平均粒径
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いて、動的光散乱法により粒径を測定し、キュムラント法解析により算出した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定サンプルには、試料をスクリュー管(マルエム株式会社製No.5)に計量し、固形分濃度が5×10-3%になるように水を加えてマグネチックスターラーを用いて25℃で1時間撹拌したものを用いた。【0053】
(4)筆記具用インクの粘度
筆記具用インクの25℃における粘度を、E型粘度計「TV-25」(東機産業株式会社製、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて測定した。【0054】
合成例1(ポリマー分散剤B1の合成)
温度計、100mL窒素バイパス付き滴下ロート2本、還流装置を具備した1000mL四つ口丸底フラスコに、1,4-ジオキサン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級試薬)100gを入れ、オイルバスにて該フラスコの内温を90℃まで加温した後、窒素バブリングを10分間行った。その後、原料モノマーとして、98%アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級試薬)3g、オクトキシ(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール)メタクリレート(日油株式会社製「ブレンマー50POEP-800B」)67g、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級試薬)30g、及び3-メルカプトプロピオン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級試薬)1.5gをポリビーカー中で溶解し、滴下ロート(1)に入れた。別途、1,4-ジオキサン20gと2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬株式会社製「V-65」、重合開始剤)0.15gをポリビーカー中で溶解し、滴下ロート(2)に入れた。次いで、上記フラスコにむけ、滴下ロート(1)及び滴下ロート(2)内の混合物を同時にそれぞれ90分かけて滴下した。その後、該フラスコ内の内温を90℃に昇温した後、更に1時間撹拌を続けた。その後、室温まで冷却し、その後、回転式蒸留装置「ロータリーエバポレーターN-1000S」(東京理化器械株式会社製)を用いて、回転数50rpm、温浴を80℃に調整し、圧力100トールで留去物がなくなるまで蒸留を行った。その後、減圧乾燥機「VO420」(アドバンテック社製)を用い、温度110℃、圧力40トールで48時間乾燥させることで、ポリマー分散剤B1として〔(アクリル酸/オクトキシ(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール)メタクリレート/スチレン)〕共重合体(酸価:23mgKOH/g、Mn:31,600)を得た。【0055】
合成例2(ポリマー分散剤B2の合成)
合成例1において、原料モノマーを、98%アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級試薬)3g、及びオクトキシ(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール)メタクリレート(日油株式会社製「ブレンマー50POEP-800B」)97gに変更した以外は同様にして、ポリマー分散剤B2として〔(アクリル酸/オクトキシ(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール)メタクリレート)〕共重合体(酸価:23mgKOH/g、Mn:56,200)を得た。【0056】
比較合成例1(ポリマー分散剤BC2の合成)
合成例1において、原料モノマーを、98%アクリル酸100gのみに変更した以外は同様にして、ポリマー分散剤BC2としてポリアクリル酸(酸価:780mgKOH/g、Mn:7,700)を得た。【0057】
実施例1
〔金属微粒子乾燥粉の製造〕
(工程1)
1000mLのガラスビーカー中に、還元剤としてN,N-ジメチルエタノールアミン(以下、「DMEA」ともいう)を23g入れ、マグネチックスターラーで撹拌しながらオイルバスで40℃に加温した。
別途100mLのビーカーに、金属原料化合物として硝酸銀を140g、ポリマー分散剤B1を8g、イオン交換水を70g投入し、40℃で、マグネチックスターラーを用いて目視で透明になるまで撹拌し、混合液を得た。
次いで、得られた混合液を1000mLの滴下ロートに入れ、該混合液を40℃に保持したDMEAに30分かけて滴下した。その後、オイルバスで反応液の温度を40℃に制御しながら5時間撹拌し、次いで空冷して、分散された銀微粒子を含有する濃茶色の分散体を得た。【0058】
(工程2)
工程1で得られた分散体全量を、透析チューブ(REPLIGEN社製、「スペクトラ/ポア6」、透析膜:再生セルロース、分画分子量(MWCO)=50K)に投入し、チューブ上下をクローサーにて密封した。このチューブを、5Lガラスビーカー中の5Lのイオン交換水に浸漬し、水温を20~25℃に保持して1時間撹拌した。その後、イオン交換水を1時間ごとに全量交換する作業を3回繰り返した後、48時間攪拌を継続し、精製した銀微粒子の分散体を得た。
上記の示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)を用いた方法により質量比[金属微粒子A/(金属微粒子A+分散剤B)]を算出した。【0059】
(工程3)
工程2で得られた精製した銀微粒子の分散体を、ドライチャンバー(東京理化器械株式会社製、型式:DRC-1000)を付属した凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製、型式:FDU-2110)を用いて、乾燥条件(-25℃1時間凍結、-10℃9時間減圧、25℃5時間減圧。減圧度5Pa)で凍結乾燥することにより、ポリマー分散剤B1を含む金属微粒子乾燥粉1を得た。【0060】
〔筆記具用インクの製造〕
5000mLのポリエチレン製ビーカーに、金属微粒子乾燥粉1を215g、プロピレングリコール(以下、「PG」とも表記する)300g、ギ酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)10g、及びイオン交換水475gを投入し、マグネチックスターラーで撹拌しながら超音波分散機(株式会社日本精機製作所製、型式:US-3001)で3時間分散した。その後、5μmのディスポーザルメンブレンフィルター(ザルトリウス社製、ミニザルト)を用いてろ過を行い、筆記具用インクI-1を得た。【0061】
〔筆記具用ペンの作成〕
筆記具用インクI-1を、インク詰め替えマーカー容器(ホルベイン画材株式会社製、W-6mm)に5g入れ、ペン先を下に向け押すことでペン先へインクを充填し、筆記具用ペンを得た。【0062】
〔金属膜の形成〕
得られた筆記具用ペンを用い、樹脂製基材としてポリイミドフィルム「カプトン500H」(東レ・デュポン株式会社製、厚み125μm)100cm2に対してインクの塗布量が0.01gとなるように均一に塗布した。このインクを塗布したポリイミドフィルムをホットプレート「ネオホットプレート」(アズワン株式会社製)上に置き、250℃で30分加熱した後、常温に戻し、金属膜を形成した。【0063】
実施例2
実施例1の金属微粒子乾燥粉の製造においてポリマー分散剤B1に代えてポリマー分散剤B2を用いてポリマー分散剤B2を含む金属微粒子乾燥粉2を得た後、実施例1の筆記具用インクの製造において金属微粒子乾燥粉1に代えて金属微粒子乾燥粉2を用いた以外は同様にした。【0064】
実施例3
実施例1の筆記具用インクの製造において、プロピレングリコールをグリセリン(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、特級)に変更した以外は同様にした。【0065】
実施例4~9,13,14、比較例3,4
実施例1の筆記具用インクの製造において、表1に示すインク組成となるように、金属微粒子乾燥粉1、プロピレングリコール、ギ酸、又はイオン交換水の量を変更した以外は実施例1と同様にした。【0066】
実施例10,11、比較例5,6
実施例1の金属微粒子乾燥粉の製造において、ポリマー分散剤B1を24g(実施例10)、2.7g(実施例11)、27g(比較例5)、1.6g(比較例6)にそれぞれ変更した以外は同様にした。【0067】
実施例12
実施例1の筆記具用インクの作成において、ギ酸を酢酸(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、特級)に変更した以外は同様にした。【0068】
実施例15
実施例1の筆記具用インクの製造において、プロピレングリコールをエチレングリコール(以下、「EG」とも表記する)(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)に変更した以外は同様にした。【0069】
実施例16
実施例1の金属微粒子乾燥粉の製造の工程1を下記工程1’に変更し、工程1’で得られた分散体全量を用いて、実施例1の金属微粒子乾燥粉の製造の工程2及び工程3と同様にしてポリマー分散剤B1を含む金属微粒子乾燥粉5を得た。次いで、実施例1において金属微粒子乾燥粉1に代えて金属微粒子乾燥粉5を用いた以外は同様にして筆記具用インクI-16を得たのち、該インクを用いた筆記具用ペンを作成し、金属膜を形成した。
(工程1’)
1000mLのガラスビーカー中に、還元剤としてヒドラジン1水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、特級)を10g入れ、マグネチックスターラーで撹拌しながらオイルバスで40℃に加温した。別途100mLのビーカーに、金属原料化合物として硫酸銅を88g、ポリマー分散剤B1を8g、イオン交換水を70g投入し、40℃で、マグネチックスターラーを用いて目視で透明になるまで撹拌し、混合液を得た。
次いで、得られた混合液を1000mLの滴下ロートに混合液を入れ、40℃に保持したDMEAに30分かけて滴下した。その後、オイルバスで反応液の温度を40℃に制御しながら5時間撹拌し、次いで空冷して、分散された銅微粒子を含有する黒色の分散体を得た。【0070】
実施例17
筆記具用インクI-1を用い、基材としてポリイミドフィルム(カプトン500H)に代えて写真光沢紙「キヤノン写真用紙 光沢ゴールドA4」(型番:GL-101A4100)100cm2に対してインクの塗布量が0.01gとなるように均一に塗布した。塗布後に加熱を行わずに、温度25℃、湿度50%の恒温高湿室に24時間保管し、金属膜を形成した。【0071】
比較例1
実施例1の金属微粒子乾燥粉の製造においてポリマー分散剤B1に代えてポリマー分散剤BC1「ポリビニルピロリドンK-85」(日本触媒株式会社製)を使用した以外は実施例1と同様にした。【0072】
比較例2
実施例1の金属微粒子乾燥粉の製造においてポリマー分散剤1に代えて比較合成例1で得られたポリマー分散剤BC2(ポリアクリル酸)を使用した以外は実施例1と同様にした。【0073】
<評価>
〔シート抵抗(表面抵抗率)〕
実施例及び比較例で得られた各印刷物のシート抵抗(表面抵抗率)を、抵抗率計(本体:ロレスターGP、四探針プローブ:PSPプローブ、いずれも株式会社三菱ケミカルアナリテック社製)を用いて、四探針法により少数点以下1桁まで測定した。結果を表1に示す。表面抵抗率が低いほどシート抵抗が低く、導電性に優れる。【0074】
〔キャップオープンタイム〕
実施例及び比較例で得られた各筆記具用ペンのキャップを取り、温度25℃、湿度50%の恒温高湿室にて所定の時間静置した状態で保管した。保管後の筆記具用ペンを用いて樹脂製基材としてポリイミドフィルム(カプトン500H)100cm2に対してインクの塗布量が0.01gとなるようにインクを塗布し、カスレが初めて確認された時間をキャップオープンタイムとした。結果を表1に示す。キャップオープンタイムの時間が長い程、長期的に安定して使用することができ、キャップオープンタイム特性に優れる。【0075】【表1】
【0076】
表1から、実施例1~17は、比較例1~6と比べて、表面抵抗率が低いことからシート抵抗が低い金属膜を形成することができ、キャップオープンタイム特性に優れることが分かる。【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、シート抵抗の低い金属膜が形成することができ、キャップオープン特性に優れる筆記具用インクを得ることができる。該インクを充填してなる筆記具は、教育現場やプロトタイピング等様々な分野に好適に用いることができる。
出願番号JP2020212917A
出願日2020-12-22
公開番号JP2022099135
公開日2022-07-04
被引用件数 (JP・US) 0
引用件数 0
早期審査 (JP) 0
出願人花王株式会社
発明者吉田 友秀 , 坂上 奨
代理人/特許事務所特許業務法人大谷特許事務所
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